くだらないこと言ってもいい?
別になんということでもないのだが、ブクマ100字では巧く引用できそうになかったので、こうしてエントリにて。
別に解決策でもなんでもない。
昔に読んだ太宰の「火の鳥」を思い出しただけだ。
この火の鳥、未完の小説である。
ある女優の半生をつづった小説なんだけど、前半が女優になる前、後半が女優になってから、という構成であり、この女優にまとわりつく男の了見の狭さとかを味わったりする小説だったりする。
取り急ぎの説明はここらにしといて、本題は前半、乙彦(おとひこ)という自殺を考えている男がある晩バーに立ち寄り、物語上ゆくゆくは女優になる女「幸代(さちよ)」と出会い、語り合う場面である。
幸代は田舎から東京へ飛び出し、苦労の果て同じように自殺を考えるまで疲弊したところ乙彦と出会い、束の間の会話を交わす。
ふたり切りになると、「あなた、死ぬのね。」「わかるか。」乙彦は、幽かに笑った。「ええ。あたしは、不幸ね。」やっと見つけたと思ったら、もうこの人は、この世のものでは、なかった。「あたし、くだらないこと言ってもいい?」「なんだ。」「生きていて呉れない? あたし、なんでもするわ。どんな苦しいことでも、こらえる。」「だめなんだ。」「そう。」このひとと一緒に死のう。あたしは、一夜、幸福を見たのだ。「あたし、つまらないこと言ったわね。軽蔑する?」「尊敬する。」ゆっくり答えて、乙彦の眼に、涙が光った。
これだけの引用である。
この引用に少しでも心動かされたなら、一読してみてはどうだろう。バカな男の独り語りも聞けるしね。